聖女の愛した花園


 私たちが特別な関係になるまで時間はかからなかった。私は毎夜十八時過ぎに白百合寮のさゆりの部屋を訪れ、逢瀬を重ねるようになる。
 自分の身の上を話したのは、さゆりを口説き落とすのに有効的かつ男であることを受け入れてもらいやすいと思ったからだ。だが彼女に子を産んでもらうことが目的だったはずなのに、いつしか本気でさゆりを愛するようになっていた。

「ねぇ、あなたの名前を教えて」
「名前?」
「渚はお姉さんの名前なのでしょう? あなたの本当の名前は?」
「……(かいり)
「浬。素敵な名前ね」

 それは父が名付けた名前。父だけが呼んでくれた名前だった。

「浬、大好きよ」

 母が認めてくれなかった姫宮浬という存在を、さゆりは受け入れて愛してくれた。本当はずっと姉さんの代わりではなく、自分自身として生きたかった。自分は生きていてもいい、ここにいてもいいのだと誰かに言って欲しかった。

「さゆり、愛してる」

 自分はずるい。最初は利用するつもりだったくせに、本気で愛して今は誰にもさゆりを奪われたくないと思っている。さゆりは由緒正しき白雪のたった一人の娘であり後継者だ。卒業したら白雪に相応しい婿を迎え入れることになるのだろう。本人から直接聞いたことはないが、もしかしたら既に婚約者がいるのかもしれない。

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