聖女の愛した花園
もしかしたらさゆりは、気づいていたのかもしれない。あの時渡したものがピルではなかったことに。本当はさゆりのことを利用しようとしていたことも、知っていたのかもしれない。
今は違う、本気でさゆりを愛している。あんな馬鹿なことを考えていた自分を殴り飛ばしたいくらいには後悔している。いや、後悔しているのは今もだ。本当にこれでいいのか、今もずっと迷いが消えない。だが結局男と知られることを恐れる自分が狡くて情けない。
「ちゃんと計算できてるかわからないから多分だけど、この子が産まれるのは卒業前になりそうなの」
さゆりのお腹はもう随分と膨らんでいた。
「卒業式には出られないかもしれないわね」
「その時は僕も出ない」
「ダメよ、浬はちゃんと卒業しなきゃ」
「でも、」
「渚としてちゃんと卒業して、お母さまに話すのはその後にするって言ったでしょう?」
「だけど卒業前に産まれるならもっと前に言うべきだよ。さゆりのご両親にも」
「ダメ、産まれてから」
何故かさゆりはそこだけは譲らなかった。
「きっとお母さまはあなたの卒業式を楽しみにされているわ。最後に晴れ姿を見せて、“渚”からは卒業してもらいましょう」
「……わかった」
その時、ドアの向こうから「さゆりお嬢様」という声が聞こえた。どうやらメイドが帰って来てしまったらしい。「ちょっと待って」とさゆりが返事をして、僕のことは窓から逃がしてくれた。