聖女の愛した花園
そして気づく、姉の死を受け入れられなかった母も逃げだったのではないか。愛する夫を亡くし、娘まで失ったと思いたくなくて――私を姉だと思い込むことで逃げたのではないだろうか。
「何を言っても信じてもらえないのはわかってる。でも、私はさゆりのことを愛してた。子どものことも守るつもりだった。……それだけは本当なんだ」
透はぐっと唇を噛む。私の胸倉を掴んだまま、ボソリと何かを呟いた。その後、掴んでいた胸倉をパッと離す。視線を逸らした彼女の感情は読み取れない。
私は目を伏せて俯く。他の三人の顔も見られなかった。特に蘭華がどんな顔をしているのか――。
「……ごめん、少しだけ一人にさせて欲しい」
そう言って私は踵を返す。この期に及んでまた逃げてしまう自分はどうしようもない人間だと思う。一歩、また一歩と歩みを進める度に胸の奥に巣食っていた後悔、恐怖心、喪失感が一気に押し寄せる。
「さゆり……」
それでも君を愛していた。父以外に初めて“僕”を受け入れてくれた君のことを、本気で愛していたんだ。君と生きる未来を本気で信じていた。
でも、さゆりはもういない。残された自分にできることは――。
「……あなただったんですね」
不意に呟かれた言葉。足音もなく背後にいた存在に驚いて振り返る。
「佳乃子……?」
「あなたが、さゆりさまを穢したんですね……」