聖女の愛した花園

第六章【反転した福音】



 私の日課は毎朝礼拝堂でマリア様に祈りを捧げることです。先生も生徒もそんな私のことを敬虔なクリスチャンと評します。でも、本当はマリア様に捧げているわけではありません――私にとってのマリア様は、さゆりさまただお一人なのですから。

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 私の実家は乙木家具という老舗企業です。創立から守り続けるブランドは多くの消費者から信頼を集めておりましたが、ここ数年業績は右肩下がりでした。新しい競合他社が次々と現れ、伝統だけでは立ち行かなくなってしまったのです。社員を守るため社長の父は必死に奮闘しておりました。

 ところが突然、父は睡眠薬を大量に飲みすぎて倒れていたところを発見されました。その隣で母も倒れていました。すぐに二人とも病院に運ばれましたが、意識不明の重体でした。二人が自殺を図ったことは明白です。父の机の引き出しからは遺書が見つかりました。遺書にはこう書かれていました。


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