聖女の愛した花園


 その直後、私は佳乃子に首を絞められていた。必死にもがきながら息苦しさに身悶えるしかなかった。こんな状況なのに、私は佳乃子の理想を貫けなかったことを憂いていた。

 ごめんなさい、私は聖女にはなれなかった。いえ、最初から聖女なんかじゃなかった。私はただの人間、他者の理想で塗り固められていただけの空っぽな人間なの。そして最期になって気づいてしまった、私が本当に望んでいたもの。それは白雪さゆりというただ一人の少女として、誰かに愛してもらいたかったということに。そして私も誰かのことを愛したかった。

 私を聖女と崇め殺したい程愛してくれた佳乃子のことも、私のことを憎んでいた流奈のことも、求める愛を与えてあげられなかった蘭華のことも、心からお姉さまと慕ってくれた透のことも。
 そして女として浬のことを、母としてこの子のことを愛したかった。

「あいし、てる……」

 苦しみながら呟いた言葉は、誰にも言えなかった言葉。「好き」とは言えても「愛してる」とは誰にも言えなかった。でも、こんなことになるならちゃんと言えば良かったな。
 自信がなくて言えなかったけど、生まれてくるこの子にはちゃんと伝えたいって思っていたのに。あなたのことを愛してるのよ、って直接伝えたかったな――……。

 私はその場に崩れ落ちる。意識が遠のいていくのがわかった。
 ごめんね、上手に愛してあげられなくてごめんなさい。それでも私は愛していた。あなたたちと出会った花園を、この子を授かったこの花園を愛していた。それを直接伝えられなくてごめんなさい。
 私は静かに目を閉じ、その生涯に幕を閉じた。

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