聖女の愛した花園
私はさゆりの腹にナイフを突き立てた。この時のことを詳しく説明することはできない。ただ無我夢中だった。純白のセーラーが真っ赤に染まろうとも、どうでも良かった。どれだけの時間が過ぎたかはわからないが、やがてその場に産声が響く。男の赤ちゃんだった。その子は確かにこの世に生まれたことを証明する産声をあげたのだ。
「はあ……っ」
私は最後の大仕事として、赤ん坊のへその緒を切った。母体から切り離し、いよいよこの子は一人の人間として生まれ落ちたのだ。だが裸のままでは体が冷えてしまうので、とりあえずカーテンを切り裂いて赤ん坊を包んだ。
「この子は、さゆりの子ども……」
さゆりはいない、だけどこの子は生きている。さゆりの中に宿った命は確かにここに存在している。この子はさゆりの生まれ変わりとも言うべき存在なのではないだろうか。
「さゆり、さゆり……」
誰よりもさゆりを愛していた。透にも佳乃子にもたまに渚にも嫉妬してしまうくらい、さゆりだけを愛していた。あなたのすべてが愛おしくて欲しくてたまらなくて――でもこんなに不毛な想いを抱き続けてもあなたが手に入るわけじゃないから、ずっと自分自身を押し殺していたの。だけどもうあなたはいない。あなたを救えなかった自分にできることは――、
「この子は、私が育てるわ」
この子だけは、私が守り抜く。誰にも触れさせない、私が守る。この子は、私だけのもの。