氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
――ただの“候補”だったということ。

――誰一人として、皇帝に触れられたことはない。

その沈黙を破ったのは、エリザベートの微かな吐息。

「陛下が手を伸ばしたのは、貴女だけです。」

彼女の瞳には、悔しさ、嫉妬、そして――どうしようもない敗北が滲んでいた。

私だけが、皇帝に抱かれた。

私だけが、彼の隣にいる。

その事実が、ようやく、少しずつ現実味を帯びて私に迫ってきた。


その後、私はそっと宮殿の廊下を歩き、皇帝の執務室へと足を運んだ。

重厚な扉の前で、深く息を吸ってから、静かにノックする。

「……お入り。」

中から返ってきたのは、低く落ち着いた声。

扉を開けると、ルシウス陛下が、軍服姿のまま机に向かい、書類に目を通していた。

その姿は冷静そのもので、昨夜の彼とはまるで別人のように見えた。

「陛下……」

声をかけると、彼は一度だけちらりと私を見て、「ああ」と、短く応えた。
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