氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
そして、手を止めることなく呟いた。

「皇后は、執務室にもやってくるのか。」

――責めるようでもなく、ただ淡々とした言葉だった。

けれど私は、勝手なことをしてしまったのかと戸惑ってしまう。

「……申し訳ございません。」

俯きながら言葉を続ける。

「母が……昔、執務室で、父である国王と一緒にいるのを、よく見かけたので……」

懐かしい記憶だった。

母は控えめに座っていたけれど、国王の隣にいる姿が、とても穏やかで、幸せそうに見えた。

――もしかしたら、私も同じように、そっと寄り添えるのではないかと。

けれど、そんな甘い幻想は間違いだったのかもしれない。

「失礼しました。」

そう言って、私は身を翻した。

胸の奥が少しだけ、きゅっと痛んだ。

逃げるように扉に手をかけた瞬間――

「……待て。」

背後から、短く鋭い声が飛んできた。

私の動きが、ぴたりと止まった。
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