氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
「ならば、もう争わないでください。私も、あなたを敵とは思いたくない。」

エリザベートは何も言わず、静かに立ち去った。

夜。

ヴァルクレア宮殿の広く静かな寝室に、ルシウスは黙って入ってきた。

ベッドに横たわっていた私は、彼の姿を見るなり、少しだけ身体を起こす。

「……処分、終わったのですか?」

「エリザベートは、公爵令嬢の地位を剥奪した。屋敷に謹慎だ。国外追放でもよかったが……それでは“お前が望まない”と思ってな。」

その言葉に、私の目が揺れる。

「ありがとう……ございます。」

「……お前の命が狙われた。それなのに、あんな風に相手をかばうような真似をするなんて。」

ルシウスは、ベッド脇の椅子に腰掛け、深く息を吐いた。

「正直、震えたよ。俺の目の前で、お前が苦しんで……あんな薬のせいで。」

その声は、皇帝のものではなかった。

ただ一人の男としての、痛みと恐怖を滲ませた声だった。

「私も……怖かった。でも、陛下が来てくれて、よかった……」
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