氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
「アナベル。」

名前を呼ばれると、自然と目が合う。

いつも冷たく強い瞳が、今夜はとても優しかった。

「俺が皇帝である限り、お前を狙う者は消える。だがそれでも……完全には守れないかもしれない。」

「それでも、私は陛下の側にいたいです。」

その言葉に、ルシウスの手がアナベルの頬に添えられる。

「こんな気持ちになるとは思ってなかった。」

「……どんな?」

「お前だけが、生きていてほしいと、心から願ってる。」

静かに、けれど確かに熱を帯びたその声は、アナベルの胸の奥まで響いた。

「お前がいなければ、俺は……もう、皇帝なんてやってられない。」

「陛下……」

ルシウスはベッドに腰かけ、アナベルを抱きしめた。

彼女の髪に口づけながら、微かに震える声で囁いた。

「もう二度と、俺の前で倒れるな。」

アナベルはその胸に顔を埋めて、静かに頷いた。

「はい……」

部屋の灯が、優しく揺れていた。

その夜、二人は何も求め合わず、ただ寄り添うように眠りについた。

心が、確かに繋がった――氷の城に灯る、小さな愛の光。

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