氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
それなのに、現実は、冷たい取引。

愛などない契約の中で、私は手渡されようとしている――冷たい皇帝の元へと。

でも、これは――和平の取引。

私が行かなければ、この国に平和は訪れない。

静かに、でも確かな声で、私は立ち上がった。

「父上、兄上。……私は行きます。」

「アナベル……!」

父が悲痛な声をあげた。兄も驚きに目を見開いている。

けれど、私はもう揺らがなかった。

「この国のために。和平の象徴として、私はヴァルクレアへ参ります」

父はその場に崩れるように座り込み、肩を震わせて泣いた。

強くて誇り高かった父が、泣いている。

でも私は、もう涙を見せなかった。

見せてしまえば、気持ちが揺れてしまうから。

「大丈夫です。……皇帝は、私を“妻にしたい”と望んでいるのでしょう?」

「……ああ、そうだ」

兄が絞り出すように答える。
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