愛しのマイガール

その日の午後のレッスンは、実務的な内容だった。

「本日は、月城グループの事業構造について理解を深めましょう」

英子さんはそう言って、テーブルの上に数枚の図表と報告書を並べた。

そこには、グループ全体の構造を中心に置いた、大きな円のような組織図があった。

「月城の中核は、言うまでもなくホスピタリティ業——国内外のホテル、リゾート施設、ブライダル、レストラン運営など。“お客様を迎える”という理念が、すべての出発点です」

私はその言葉に、思わず少し背筋を伸ばした。

「ですが、財閥規模のグループとして成長するには、そこから“支えるための基盤”が必要になります。たとえば不動産はホテル建設のために、交通・物流はサービスの流通のために、医療や教育は信頼資本として。……一見バラバラな事業も、すべては迎えるための体制として繋がっているのです」

英子さんの言葉は、とても整っていて、明確だった。

そして続けて、こう言った。

「月城家の人間に求められるのは、“人の前に立つ力”ではなく、“人を迎える器”です。それが、グループの思想そのもの。あなたが今学んでいる礼節も、知識も、すべてはその土台になる」

 
人を迎える器。
……その言葉が、なぜか心に深く残った。

私はうなずきながら、渡された資料に目を落とした。

経営数字や事業部名、提携企業のリスト。
難しい言葉が並んでいて、正直、頭に入れるのに必死だった。でも、「理解したい」と思った。

肩書きのためでも、期待に応えるためでもない。

ただ、ハルちゃんの隣に、胸を張って立てるようになりたい。

そう願う、私がいた。



 
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