愛しのマイガール
❁。✩
熱を出して倒れ、回復した数日後。
その日、私はひとりで天城さんの勤める弁護士事務所を訪ねていた。
月城邸を出るのは久しぶりだった。
体調は万全ではなかったけれど、「外で話すことが大切だ」と自分に言い聞かせて、思い切って足を運んだ。
その朝、玄関を出る支度をしていると、後ろから足音が近づいた。ハルちゃんだった。寝ぐせひとつない完璧なスーツ姿で、これから仕事に出かけるところなのだろう。
「……本当に行くのか」
そう言った彼の声には、かすかに心配がにじんでいた。
「うん。ちゃんと自分で話したくて」
コートの裾を整えながら答えると、彼は小さく息をついた。
「天城の事務所なら俺も少し後で寄る予定だった。……一緒に行くか?」
「大丈夫。ちゃんと、ひとりで話してみる」
私がそう言うと、ハルちゃんはしばらく黙ってこちらを見つめ、
ほんの少しだけ、柔らかく微笑んだ。
「じゃあ……気をつけて。無理だけはするな」
「うん。ありがとう」
その一言に、不思議と背中を押された気がした。
そばにいてほしいと思うのと同じくらい、彼が何も言わずに任せてくれることが、嬉しかった。
そして私はひとり、タクシーに乗り込んだ。
到着したビルの扉を開けた瞬間、空気がぴんと張り詰めていた。
大きなガラス窓に磨き上げられた木製の家具。
無機質なのに、静かに圧をかけてくるような空間だった。
「本日はご足労いただきありがとうございます」
応接室で待っていた天城さんが立ち上がり、一礼した。無表情のまま、正確に頭を下げる。
テーブルには資料が整然と並べられていて、私は手に汗をかくのを感じた。
「ご着席を。前回ご確認いただいた通り、九条薫子側の主張には複数の虚偽・誇張が含まれています。当方としては、“事実誤認と名誉毀損”を主軸に反訴を起こす方向で確定しています」
「はい……内容は、すべて読ませていただきました」
私は天城さんの目をまっすぐに見つめた。
反訴。それは「守られる側」ではなく、「自ら声を上げる側」になるということ。
簡単なことじゃない。怖い。
でも、それをしなければ、このまま誤解されたままの自分で終わってしまう気がした。
熱を出して倒れ、回復した数日後。
その日、私はひとりで天城さんの勤める弁護士事務所を訪ねていた。
月城邸を出るのは久しぶりだった。
体調は万全ではなかったけれど、「外で話すことが大切だ」と自分に言い聞かせて、思い切って足を運んだ。
その朝、玄関を出る支度をしていると、後ろから足音が近づいた。ハルちゃんだった。寝ぐせひとつない完璧なスーツ姿で、これから仕事に出かけるところなのだろう。
「……本当に行くのか」
そう言った彼の声には、かすかに心配がにじんでいた。
「うん。ちゃんと自分で話したくて」
コートの裾を整えながら答えると、彼は小さく息をついた。
「天城の事務所なら俺も少し後で寄る予定だった。……一緒に行くか?」
「大丈夫。ちゃんと、ひとりで話してみる」
私がそう言うと、ハルちゃんはしばらく黙ってこちらを見つめ、
ほんの少しだけ、柔らかく微笑んだ。
「じゃあ……気をつけて。無理だけはするな」
「うん。ありがとう」
その一言に、不思議と背中を押された気がした。
そばにいてほしいと思うのと同じくらい、彼が何も言わずに任せてくれることが、嬉しかった。
そして私はひとり、タクシーに乗り込んだ。
到着したビルの扉を開けた瞬間、空気がぴんと張り詰めていた。
大きなガラス窓に磨き上げられた木製の家具。
無機質なのに、静かに圧をかけてくるような空間だった。
「本日はご足労いただきありがとうございます」
応接室で待っていた天城さんが立ち上がり、一礼した。無表情のまま、正確に頭を下げる。
テーブルには資料が整然と並べられていて、私は手に汗をかくのを感じた。
「ご着席を。前回ご確認いただいた通り、九条薫子側の主張には複数の虚偽・誇張が含まれています。当方としては、“事実誤認と名誉毀損”を主軸に反訴を起こす方向で確定しています」
「はい……内容は、すべて読ませていただきました」
私は天城さんの目をまっすぐに見つめた。
反訴。それは「守られる側」ではなく、「自ら声を上げる側」になるということ。
簡単なことじゃない。怖い。
でも、それをしなければ、このまま誤解されたままの自分で終わってしまう気がした。