愛しのマイガール
法律事務所を後にした私は、まっすぐ月城邸に戻る気にはなれなくて、その足で近くのカフェに立ち寄った。
午後の光が柔らかく差し込む、落ち着いた雰囲気の店内。週末のにぎわいはまだ先のようで、空いている席がいくつもあった。
カフェオレを注文して椅子に腰を下ろすと、ようやく体の力が抜けていくのを感じた。
あの部屋では平気なふりをしていたけれど、本当はずっと息を止めていたみたいだった。
それでも……自分の言葉で「やる」と決め、今の気持ちをはっきりと伝えられたことに、少しだけ誇らしさもあった。
「ふう……」
ため息混じりにカップを両手で包みながら窓の外に目をやると、向かいの席に親子らしい二人が座っていた。
まだ幼い女の子が、ミルクをこぼして「ごめんなさい」としゅんとする。その隣で母親がやさしく笑って、何でもないようにハンカチを差し出した。
それだけの光景なのに、どうしてだろう。胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
(……いいな、ああいうの)
何気なく、二人のテーブルにもう一度目をやったとき——
ふと、母親の横顔に見覚えがあることに気づいた。
澄んだ大きな瞳も、桜色の頬も、やわらかい笑顔も……どこかで、見たことがある。
(……あれ?)
思わず身を乗り出してしまう。その人たちはあの時——ルナティアの庭園で出会った、親子だった。
そして確か、あの女の子の名前は。
その瞬間、娘さん——紬ちゃんがぱっとこちらに目を向け、にこりと笑った。
私は思わず目を見開いた。
その笑顔にはどこか懐かしさと、癒される何かがあった。