愛しのマイガール

「あのね、つーたちはね、パパをまってるの」

「パパ?」

「そうだよ〜パパずっとおしごとがんばってたから、今日はおしごとちょっとだけなんだって」

「そうなんだ……」

紬ちゃんの話を聞きながら、私は微笑んだ。つたない話し方も、純粋な瞳も、全部が可愛くて。心の奥から、ふっと力が抜けていくのを感じた。

「パパ、早く来てくれるといいね」

「うん!ママもね、パパがいなくてさびしいっていってから、あいたいもんね」

「ちょ、つーちゃん…!」

(なんだか、すごく癒される親子だなあ……)

ふたりから放たれるあたたかな空気に、張りつめていた緊張がゆっくり解けていく。

こんな親子が待っていてくれているなら、旦那さんはさぞかし幸せだろうな……と思っていたそのとき、店の入り口のドアが静かに開いた。

背筋がすっと伸びるような、落ち着いた足音。何気なく視線を向けた私は、その姿を目にした瞬間、息が止まりそうになった。


「悪い、待たせた」

声も、間違いなくその人。
けれど、表情も声色も、私が知る彼とはまるで違っていた。

無表情が服を着て歩いているような人だったのに、今目の前にいる彼は、穏やかで、優しくて。

私が知っている天城さんとは、まるで別人だった。

「パパ、きた!」

「えっ!?」

紬ちゃんの声に、思わず声を上げてしまう。

その声でようやく天城さんが私に気づいたようだった。緩んでいた眉間に、いつものような皺が寄せられる。

「ああ……どうも」

「え、あ……はい…」

熱を感じない声。いつもの冷たく淡々とした口調に、逆に私はほっとしてしまった。

「いっちゃん、お知り合い?」

(い、いいいいっちゃん!!??)

別の場所ならすっ転んでいたかもしれないほどの衝撃が走った。天地がひっくり返っても似合わないあだ名が、紬ちゃんのお母さんの口から自然に出てくる。

それを天城さんも、当たり前のように受け止めて頷いていた。
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