愛しのマイガール
———


数日後。
昼休み、院内の裏手にあるカフェの窓側の席で私は一人、ぼんやりと座っていた。
そのとき、スマホが鳴った。

見知らぬ番号。どうせセールスだろうと一度目は無視した。でもすぐにまた同じ番号からかかってきて、なぜだか胸騒ぎがした。

「……はい、蓬来です」

『もしもし』

電話の向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのない無機質な女の声だった。

『こちら、蓬莱瑠璃さんの電話でお間違いないですか?』

「そうですけど……」

『突然の連絡をお許しください。私、(さかき)翔真の婚約者です』

一瞬、耳を疑った。聞き間違いだと信じたかった。

「………え?」

長い沈黙のあと、ようやく絞り出した声がそれだった。

『あなたと彼の不貞の件でお話があります。証拠はすでにこちらで揃えております。後日、弁護士を通して慰謝料を請求させていただきます』

頭の中が真っ白になった。
心臓の鼓動が、痛いほど速くなっていく。

「……あの、何かの間違いでは……」

『いいえ。彼のスマホに残っていたメッセージの数々、食事の写真、日付。すべて確認しました』

淡々とした声だった。まるで私のことを初めから「悪女」と決めつけているような言い方だった。
色々と言われたはずなのに、私の頭には何ひとつ言葉が入ってこなかった。

電話を切ったあと、私はしばらくその場から動けなかった。

「……っ、うそ……!」

震える指で、すぐに翔真さんに連絡を入れた。
何度かけても応答はなく、ようやく届いた返信メッセージには、信じがたい言葉が並んでいた。

『バレたんだ。でも瑠璃も悪いだろ? 本気で付き合ってるって、俺がいつ言った?』

何を言っているのか、理解できなかった。

これまでの時間は?優しさは?
あの笑顔は、全部ウソ……?

何を信じて、何を疑えばよかったの?

手が震えて、涙が止まらなかった。
人目があるとわかっていても、立ち上がろうとしても、足が全然動いてくれなかった。


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