愛しのマイガール
数日経っても、心は晴れなかった。
慰謝料請求の話は現実として進んでいて、クリニックでもモデルの現場でも、どこか上の空のまま時間だけが過ぎていった。
スマホを見るのが怖くなった。SNSも閉じた。
知らないうちに、私が“悪女”として扱われているかもしれない。その想像だけで、胃が重たくなる。
夜、撮影を終えて帰宅した私は靴を脱ぎ、玄関に倒れ込むようにペタンと座り込んだ。
バッグが肩から抜け落ちた瞬間、堪えきれなくなった涙がこぼれた。
「なんで、私が……」
声を出したとたん、堰を切ったように涙があふれた。
誰にもぶつけられない怒り。裏切られた悲しみ。
何より、何も気づけなかったことへの情けなさ。
全部が胸の中でぐしゃぐしゃに混ざって、どうにもならなかった。
——ピンポーン…
その時、不意にチャイムの音が鳴った。
びくりと体が震えて、私は顔を上げる。
ゆっくりと立ち上がって、恐る恐るインターホンを覗いた。
そこに映っていたのは、兄の顔だった。
「……お兄ちゃん」
その顔を見た瞬間、胸がいっぱいになった。
私は何も言わずにエントランスのロックを解除して、兄が上がってくるのを待った。
すぐに玄関の外から音がして、私は鍵を開けた。
勢いよくドアを開け、もう何もこらえきれなくて、私はお兄ちゃんの胸に飛び込んだ。