愛しのマイガール
邸の中庭は、もうすぐ夜に染まる寸前の淡い茜色に包まれていた。木々の影が長く伸びて、風に揺れる草花のざわめきだけが、静けさの中に響いている。
その音の中に、またひとつ音が重なる。
遠くから届く足音。聞き慣れた、けれどどこか慎重な響き。
居間を通り抜け、中庭に続くガラス扉が静かに開く。
「……ここにいたのか」
ゆっくりと近づいてくるハルちゃんの声は、いつもより低く、少しだけ戸惑いを含んでいた。
「おかえりなさい、ハルちゃん」
私はゆっくりと笑顔を返す。彼は私の隣に腰を下ろし、空を見上げた。
私も同じように顔を上げると、風が夕暮れの空気を運び、雲がゆっくり流れていた。
「体調は……もう大丈夫なのか」
ぽつりと落とされたその声は、思っていたよりも、ずっと優しかった。
「うん、もう平気。心配かけてごめんね」
膝の上で手を組んだまま、うつむいた。その指先が少しだけ震えていたのは、夕方の冷えのせいだけじゃなかった。
「……ハルちゃん。私ね、天城さんの奥さんに会ったよ」
不意に切り出した言葉に、ハルちゃんの視線が向けられた。
「雫さん、すごく優しい人で、でもそれだけじゃなくて……天城さんと、すごく思い合ってた」
私の声はいつもより少しだけ小さくて、それでもどこか確かな響きを帯びていた。
「一緒にいるのが当たり前みたいで、でも甘えるだけじゃなくて……なんて言うのかな。信じて、任せて、支え合ってるって感じで」