愛しのマイガール

そのあとは、美術館へ立ち寄った。
ハルちゃんが月城グループの名で寄贈したという現代美術の企画展で、今日は関係者向けの特別内覧会が催されている。

建物の外観は、歴史を感じさせる洋館風。けれど中に入ると、ミニマルで洗練された空間が広がっていた。

ガラス張りの天窓からはやわらかい自然光が降り注ぎ、展示作品が静かに呼吸しているようだった。

ハルちゃんの隣を歩きながら、私は周囲の空気にどこか圧倒されていた。挨拶を交わす人たちの中には、著名な評論家や財団の理事など、肩書だけで胸が詰まりそうになるような人物も混じっている。

彼は、その一人ひとりに対して丁寧な言葉を選び、けれど媚びずに、真っ直ぐな目で向き合っていた。対等でいながら、相手を立てる。どの瞬間も、驚くほど自然だった。



「この館内の照明、月城グループが寄付されたんですよね?」

そっと話しかけてきたギャラリースタッフに、ハルちゃんは「ええ」とうなずいて言葉を重ねる。

「作品の意図がきちんと届く環境であるべきですから。美術も、鑑賞する体験そのものが大事だと思っています」

「本当にありがとうございます。明るさの調整ひとつで、見え方がまったく違って……作家もとても喜んでいます」

「それが一番です」

ハルちゃんの返答は短く、けれど確かだった。

そんな姿を見ていたら、私の中の彼の存在がまた少しだけ変わった気がした。

この人は、ただ大きなグループの跡取りというだけじゃない。“文化を支えること”の意味を、ちゃんと考えて、行動に移せる人なんだ。

そう思ったとき、急に隣にいる自分の存在が、少しだけ浮いているような気がした。

——私はここに、ふさわしいんだろうか。


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