愛しのマイガール
思いがけない言葉に、私は一瞬きょとんとして彼の顔を見る。
「え、いつのことだっけ……?」
「小学校の低学年の頃だったと思う。夏休みの自由課題か何かで、“家族の絵”を描いてて」
「ああ……あったかも。みんなでスイカ食べてるやつかな?」
「そう。それで、その"家族"の中に、俺も描かれてた」
そう言ったハルちゃんの笑顔は、"月城の後継者"の顔ではなく、私のよく知るハルちゃんだった。
「たぶん、るりは無意識だったと思うけど……すごく嬉しかったんだよ」
そう言って、ハルちゃんはふと視線を遠くにやった。
「家族、なんて言葉……あのときは少しだけ遠いものに感じてたから」
私は彼の横顔を見つめる。
穏やかな表情。でもその奥には、小さな孤独を抱えていた時間があったのかもしれない。
「るりはさ、俺が家にいることを自然に受け入れてくれたよな」
「え……だって…お兄ちゃんのお友達だったし……」
「ああ。でも俺にとっては、それが救いだった」
ハルちゃんの声は、あくまで静かだった。感情を押しつけない、彼らしい言い方で。
それなのに、私の胸の奥がじんと熱くなる。
あの頃の私は、かっこいい憧れのお兄ちゃんとして、彼を見ていた。でも彼にとっての私は、違っていたのかもしれない。
「……あの絵、どこ行っちゃったんだろ」
私がぽつりと言うと、ハルちゃんは少しだけ笑った。