愛しのマイガール
「俺が持ってるぞ」
「えっ!?」
「欲しいってお願いしたら碧さんがくれた。俺の自室に、額縁に入れて飾ってある」
「なっ……やめてよ!自分で言って悲しくなるけど、私、絵も下手だし…」
「小学生の絵なんてそんなもんだろ」
「や……正直今もあんまり成長してなくて……」
思わず抗議すると、ハルちゃんはくすっと笑って、肩をすくめた。
「いい絵だよ。俺にとっては、どんな名画よりも価値がある」
「…ハルちゃん……」
その言葉を受け取った瞬間、胸の奥がふっとほどけるような感覚がした。
彼にとって、私はそんな存在でいられたのだろうか。あの頃はただ、無邪気に笑っていただけなのに。
でも、あの頃の小さな私が、少しでもハルちゃんの心をあたためていたのだとしたら。それはとても、嬉しいことだった。
「……ずるいよね、ハルちゃんって」
「ん?」
「そうやって、全部の思い出を大事にしてくれるの。ずるい。もう何も言えなくなっちゃうよ」
「言わなくていいよ。伝わってるから」
そう言って微笑む彼の瞳は、まっすぐで、あたたかくて。私はつい目を逸らしてしまう。
けれど、そのぬくもりだけは、ちゃんと心に残った。
少しだけ、黙ったままふたりで並んで歩いた。美術館の出口に差し掛かると、自動ドアの先に、暮れかけた空が広がっていた。
もうすぐ夜になる。けれど、その手前で空はやさしく色を滲ませている。
まるで、あの絵のように。
「……そろそろ、移動しようか」
「え?あ、うん」
「夕食の店を予約してあるんだ。少し歩くけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫」
頷く私に、ハルちゃんはどこか満足げに微笑んだ。
外に出ると、夜風が頬を撫でていった。少し肌寒いけれど、それさえ心地いい。彼と並んで歩くこの時間が、たったいま、特別なものに変わった気がしていた。
ほんの少し、何かの境界線が曖昧なまま……あたたかく滲むように、静かに揺れていた。