愛しのマイガール
ハルちゃんが予約してくれていたレストランは、美術館から少し坂を下ったところにある静かな一軒家だった。格子窓からもれる光が、早めの夜をそっと迎えているように見える。
扉を開けると、木の香りと、ほんのり香ばしいバターの香りがふわりと鼻先をかすめた。
「わあ……すてき」
思わずそう呟いた私に、ハルちゃんは嬉しそうに目を細める。
「だろ?このあたりじゃあんまり知られてないけど、知る人ぞ知るって感じの店なんだ。前に美術館のキュレーターに教えてもらって、会食の場で来たことがあってね」
さりげなく椅子を引いてくれる手つきに、また少しだけ、胸がきゅっとなった。
今夜の空気はたぶんずっとこのまま、穏やかに続いていく。そんな予感を抱かせるような静けさが、私たちを包んでいた。
席に着くと、店内の柔らかな照明が、白いテーブルクロスにふわりと影を落とした。音楽はなく、聞こえるのはカトラリーの微かな音と、控えめな会話の気配だけ。
「……落ち着くね、ここ」
「ああ。格式張ったところより、こういう雰囲気の方がるりは好きだろ?」
「……うん。好き」
ふとした言葉に、自然と笑みがこぼれる。どうしてだろう、さっきまであんなに緊張していたのに、今は少しだけ肩の力が抜けている。
ハルちゃんの前では、気を張らなくてもいい。彼のそばは昔からずっと、ほっとする。
前菜が運ばれてくる。小さな器に盛られたカルパッチョは、まるで絵の具のように色鮮やかだった。
「……綺麗」
思わず見惚れていると、ハルちゃんが穏やかに言った。