愛しのマイガール
店内は落ち着いた照明に包まれ、漆器や和紙、香木など、丁寧に陳列された品々が並んでいる。
まるで美術館のような空気に、思わず背筋が伸びた。
「婚約後の初訪問先には、季節感と格調を備えた贈り物が必要です。たとえばこちらの香包など、年配の女性には非常に好まれます」
英子さんは慣れた様子でいくつかの商品を手に取り、私の前に差し出す。
「……すてき。香りもすごく上品ですね」
「ええ。贈答品は、品物の質と贈る側の品格の双方が問われます。とくに月城家においては、贈り物一つで印象が大きく左右されますので」
「は、はい。頑張って覚えます」
「焦らなくて大丈夫です。瑠璃さんの感性は、すでに十分選ぶ力をお持ちかと思いますよ」
ふいにそう言われて、私は驚いて英子さんを見上げた。
彼女はいつも通りの引き締まった表情のまま、静かに視線を逸らす。
(……石神さんなりの、励まし、かな?)
思わず小さく笑ってしまいそうになって、慌てて引き結んだ唇を整えた。
その後いくつかの商品を見比べて候補を決めると、英子さんは会計を済ませ、店の外へと歩き出す。
「では、次はドレスサロンです。現時点では仮の立場ですが、将来的に正式な婚約を前提とした会見や写真撮影の予定もございますので、採寸も兼ねて参りましょう」
「ドレス……ですか」
その響きに、胸の奥がふるりと震えた。
ふと、首元に視線を落とす。
懇親会の夜にハルちゃんが贈ってくれたドレスを思い出す。そして――お守りだと渡してくれた、ネックレス。
あの日から、肌身離さずつけている。
そっとネックレスのペンダントトップに触れる。冷たい金属の感触が肌に触れるたび、昨日の言葉が蘇る。
——「早く俺に惚れてくれって……毎日思ってる」
まっすぐで、熱くて、どこまでも真剣な声だった。彼は、私のことを本気で想ってくれている。
(ハルちゃん……)
心の中で名前を呼んだ、その刹那だった。
「……瑠璃?」
背中に、思い描いた人と別の声が降ってきた。
——え……?
聞き慣れた声。懐かしくて、苦い記憶。