愛しのマイガール
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帰宅すると、邸宅の灯りが夜の静けさに滲んでいた。車から降りて玄関を抜け、真っ直ぐにるりの元へと向かう。

部屋の扉の前で、足が自然と緩んだ。薄明かりの下でドアの隙間から柔らかく漏れる光。まだ起きているらしい。

ノックの音に、小さく返る声がした。ゆっくりとドアを開けると、瑠璃は「おかえりなさい」と微笑む。

しかしソファに腰掛けながらも、その手には分厚い資料が開かれていた。

「……眠れなかったのか?」

「ちょっとだけ。……色々読んでたら、いつのまにか時間が過ぎちゃって」

「…何かあったのか」

「……ううん。何もないよ」

柔らかな声。けれどその笑顔は、どこか疲れているように見えた。

何かがあったことを、言葉にしなくても気づく。

だが彼女が口を閉ざすなら、俺はそれを尊重する。何かを乗り越えようと頑張る姿を、もう邪魔はしたくない。

「夜は冷える。風邪を引く前に休んだほうがいい」

「うん……わかってるよ。でも、もう少しだけ」

そう言ってブランケットを膝に掛け直す仕草がどこか不器用で、少しだけ幼く見えた。

俺は部屋の奥に歩を進め、棚からカップを一つ取り出す。

「カモミールでいいか?」

「え?…あ……ありがとう」

カップを渡すと、彼女の指がわずかに触れた。その手の冷たさに、今すぐにでも包み込みたい衝動に駆られた。

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