愛しのマイガール
誤魔化すように視線を落とす。
広げられたCSR関連の資料。その上には、るりの字で丁寧に書き込まれたノートがあった。
「……それ、どうした?」
声をかけると、るりは意外と落ち着いた様子で、目を伏せながら答えた。
「英子さんに、CSRの勉強をしたいってお願いしたの。この間、ハルちゃんが色々連れて行ってくれたでしょう?それで……もっと詳しく知りたくなって」
それは少し戸惑いながらも、確かな意志を感じる声だった。
「私に何かできる事ないかなって、居ても立っても居られなくて。相談したら、参考資料を貸してくれたの」
そう言って見せたノートには、彼女の文字でぎっしりとメモが埋まっている。
数字の裏にある背景、取りこぼされやすい人たちの声、過去の活動とその反省点。そのどれもが、見せるためじゃなく“知るため”に書かれていた。
「……えらいな、るりは」
「そんなことないよ。……むしろ勝手なことして、迷惑じゃなかった…?」
言いかけた言葉を、彼女は口の中で飲み込む。
「そんな事ない。逆に好都合だ」
「え?」
俺はるりの隣に腰を下ろし、少しだけ間を置いてから言った。
「——少し、やっかいな動きがある」
るりが目を上げる。なんとなく事情は察しているのだろう。真っ直ぐに見つめる中に、微かな不安があった。
俺はその視線を受け止めつつ、あえて詳細には触れなかった。
「詳しくは言わない。でも、君を狙った火種がまた風に煽られ始めてる。これから周囲の視線が騒がしくなるかもしれない」
「……」
るりは何も言わなかった。
不安げでも、怯えてはいない。ただしっかりと俺の言葉を受け止めようとしていた。