愛しのマイガール
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午前11時を回ったばかりの会議室には、既に空調より冷たい空気が流れていた。長方形のテーブルを囲む顔ぶれは、誰もがこのグループの根幹を担う重役たち。

俺はその中央に席を取り、次々と報告される議題に耳を傾けていた。

前半は、主にホテル部門の再編に関する内容だった。新たに開業する海外拠点の進捗確認と、国内需要に伴うサービス強化。

いずれも重要な案件だが、数字の範囲内で処理できる話に過ぎない。

誰がどう発言し、どこでうなずき、どこで黙るのか。一見和やかに見えるその応酬の裏にある緊張感は、この場に長くいる者にしか分からない。

そして次の議題に入るタイミングで、俺は手元のリモコンをゆっくりと握った。



「最後に、次期CSRと広報方針について。共有と提案があります」

数人が視線を戻す。CSRは直接利益にならない分、優先度が下がりやすい。だからこそ、きちんと伝える。

「月城はこれまで地域医療や子育て支援など、一定の貢献をしてきました。しかしただ“やっている”だけでは、社会には届かない。今、必要なのは“伝わる活動”です」

スライドを切り替える。
そこには、ある人物の名前が記されている。

「今回は、外部協力者として蓬来瑠璃の力を借りることにしました」

予想どおり、わずかに空気がざわついた。
俺は構わず、続ける。

「彼女は元・美容クリニックの受付スタッフ。モデルとしても活動していました。一見華やかに見えるかもしれませんが、彼女は現場で“人と向き合う”力を磨いてきた」

報告では、VIP対応の場面でも一歩も引かず穏やかに接していた。スタッフや来院者からの信頼も厚かったと聞いている。

「その彼女が今、自分の意志でCSR関連の勉強を進め、現場を見て、自分の視点で改善案をノートにまとめてくれています」

別のスライドに切り替える。
昨夜るりが書いた、手書きの文字が並んだノートの一部を拡大する。

「綺麗ごとじゃない。見逃されがちな人の声、支援の抜け落ちをどう埋めるか。彼女なりに本気で考えた内容です」

そして、核心の一言を置いた。

「私は、外側でなく中身を見ています。信頼に値すると判断したから、ここに出しています」

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