愛しのマイガール
会議室の奥、ひときわ深い沈黙の先から父の視線が向けられる。その表情には個人の感情も、親としての色もなかった。
「……専務」
一拍、間を置いてから静かに続く。
「君が提出した提案資料には目を通した。予想以上に実直で、よく調べてあるとも感じた。彼女が独りで書き上げた部分も、誠意と経験に裏打ちされた視点がある。私個人としては、一定の評価に値すると考えている」
その言葉に、会議室の空気がほんの少しだけ変わる。肯定とも否定ともつかない言い回し。それが父のやり方だった。
しかし、次の瞬間には鋭く視線が切り替わっていた。
「だがこれは経営判断だ。君が彼女を起用することで、月城が何を得るのか。あるいは、どれだけの責任を負うことになるのか。その全てを専務である君が背負う覚悟があるのなら……私に異論は無い」
目が合った。けれどそこに親子の関係はなかった。俺が見たのは、月城代表の眼だ。
たったそれだけの言葉だった。
だが、重さは誰より深かった。
父は俺を否定してはいない。ただ“その先”に立てるかどうかを、冷静に問いに変えて投げてきた。
甘くも、軽くもない。
けれどその厳しさには、俺への沈み込んだ信頼が含まれているような気がした。
「全て承知の上です。責任は、全て私が持ちます」
短く、はっきりと答える。
父は何も言わずに目を閉じ、静かに背もたれへ体を預けた。
それが、経営陣からの事実上の了承だった。