愛しのマイガール
❁。✩
財閥グループ本社、月城コーポレーションの十六階。ガラス張りの廊下を案内されながら、私はずっと、足音の小ささに意識を集中させていた。
革靴の音が混じるフロアで、ヒールの音だけが妙に浮いて聞こえる気がしたから。
(私、場違いじゃないかな……)
そんな不安を抱えたまま、案内された会議室の前で立ち止まった。
「こちらになります。ご案内は以上です」
受付担当の女性が丁寧に会釈し、去っていく。私は一度深呼吸してから、ドアをノックした。
「——失礼します」
室内には、五人ほどの社員がすでに集まっていた。
皆スーツ姿で、それぞれのパソコンや資料を前に、仕事をしていたようだった。
入った瞬間、一斉に視線が集まる。そのうちの誰かが、笑顔を向けて立ち上がった。
「はじめまして。CSR広報チームの遠藤です。本日から外部協力としてご一緒される蓬来さんですね」
「はい。蓬来瑠璃と申します。……どうぞ、よろしくお願いいたします」
緊張しながら頭を下げると、部屋の空気がほんの少しだけ動いた。けれどへそれは歓迎というより——探るような間だった。
名刺交換はあった。でも、誰も積極的に話しかけてくる感じではなかった。なんとなく距離を取られている気がする。けれど当然だ。
(社員じゃないし、でもただの外部でもない。……それに、月城専務の、婚約者)
その肩書きが、空気をよけい硬くさせていることに、私は気づいていた。
「専務のご紹介だと伺っております。どうぞ、お気軽にご意見をおっしゃってくださいね」
誰かが形式的にそう言った。穏やかな言い方だったけど、「うかつなことは言えない」と思われているような口調にも聞こえた。
「お席はこちらにどうぞ」
促された椅子に座りながら、自分のカバンの中にある資料をそっと確認する。
昨夜、眠る前まで書き込んでいた提案メモ。これが、私の唯一の“名刺”だと思っている。
財閥グループ本社、月城コーポレーションの十六階。ガラス張りの廊下を案内されながら、私はずっと、足音の小ささに意識を集中させていた。
革靴の音が混じるフロアで、ヒールの音だけが妙に浮いて聞こえる気がしたから。
(私、場違いじゃないかな……)
そんな不安を抱えたまま、案内された会議室の前で立ち止まった。
「こちらになります。ご案内は以上です」
受付担当の女性が丁寧に会釈し、去っていく。私は一度深呼吸してから、ドアをノックした。
「——失礼します」
室内には、五人ほどの社員がすでに集まっていた。
皆スーツ姿で、それぞれのパソコンや資料を前に、仕事をしていたようだった。
入った瞬間、一斉に視線が集まる。そのうちの誰かが、笑顔を向けて立ち上がった。
「はじめまして。CSR広報チームの遠藤です。本日から外部協力としてご一緒される蓬来さんですね」
「はい。蓬来瑠璃と申します。……どうぞ、よろしくお願いいたします」
緊張しながら頭を下げると、部屋の空気がほんの少しだけ動いた。けれどへそれは歓迎というより——探るような間だった。
名刺交換はあった。でも、誰も積極的に話しかけてくる感じではなかった。なんとなく距離を取られている気がする。けれど当然だ。
(社員じゃないし、でもただの外部でもない。……それに、月城専務の、婚約者)
その肩書きが、空気をよけい硬くさせていることに、私は気づいていた。
「専務のご紹介だと伺っております。どうぞ、お気軽にご意見をおっしゃってくださいね」
誰かが形式的にそう言った。穏やかな言い方だったけど、「うかつなことは言えない」と思われているような口調にも聞こえた。
「お席はこちらにどうぞ」
促された椅子に座りながら、自分のカバンの中にある資料をそっと確認する。
昨夜、眠る前まで書き込んでいた提案メモ。これが、私の唯一の“名刺”だと思っている。