愛しのマイガール
会議が始まり、遠藤さんがプロジェクトの現状や過去のCSR施策について説明してくれる。私はできるだけ静かに、でも真剣に聞いた。一言も無駄にしたくなかった。
「……以上が、今の現状です。蓬来さんも、無理のない範囲で構わないのでご意見をおっしゃってくださいね」
言葉は丁寧だったけど、「無理のない範囲で」という言葉に、ほんの少しだけ線を引かれた気がした。
そこに悪気があるかは、まだ測れない。
「はい…、ありがとうございます。今は大丈夫です」
私が言うと、一人の女性社員が資料をめくりながら、小さくつぶやいた。
「……この、“支援から漏れやすい人たち”って言葉、蓬来さんが書かれたんですか?」
資料の一部には、ハルちゃんが私にプロジェクト参加を持ちかけてきた時に彼に渡した、私の手書きの資料も組み込まれていた。
「そうです」と返すと、彼女は顔を上げ、こちらを向いた。
「私はいいと思いました。たぶん私たち、制度とか枠組みの中ばかり見てて……こういう視点、なかなか出てこないと思うから」
思わず目を開く。彼女は、誰よりも若く見えた。でも、表情には真剣さがあった。
「ありがとうございます。……今回この企画に携わらせてもらうことになって色々と調べていた中で、制度の隙間にこぼれてしまうケースが多いと知って。……そこを少しでも拾えたら、という気持ちで書きました」
気づいたら、自然に声が出ていた。彼女が小さく頷くのが見えた。
それに続くように、別の社員も資料に目を落としながら「そうですね」とつぶやいた。それに少しだけ、空気が動いた気がした。
みんなが私を歓迎しているわけじゃない。
でも、それでもいい。少しずつ、距離を縮めていければ。すぐに受け入れられるだなんて、思ってない。
難しいかもしれない。けれど私は、“月城の婚約者”としてじゃなくて、ちゃんと自分の役割としてここにいたい。
そう思いながら私は気を引き締めるように口を結び、もう一度資料に視線を落とした。