愛しのマイガール
「俺は、自分の力でここまで来た。実家の看板なんかに頼らず、現場で結果を出して、認められて……それが俺のプライドだった」
そこまで言ってから、翔真さんは小さく笑う。どこか虚ろな、皮肉めいた笑いだった。
「けどな……そこに九条の名前が入るだけで、すべてが上から与えられたものになる。俺自身の実績も、努力も……“九条の恩恵を着た男”って、そういうふうになるんだよ」
目の奥に、抑え込んだ怒りと、打ち捨てられたような苛立ちがにじむ。
「おかしいだろ。九条薫子に気に入られたってだけで、全て失うんだ。……名誉も、功績も、自由も——好きな女でさえも」
翔真さんの苦しげに歪んだ瞳が、私に向けられた。
「……瑠璃は俺にとっての、唯一の希望…だったんだよ……」
けれど——
「……だった、で済むなら、まだ救いはあるな」
ハルちゃんの冷たい声が低く、鋭く割って入った。その視線は一切の揺らぎなく、まっすぐ翔真さんを見据えていた。
「お前は、その“希望”にすがった。彼女の気持ちも痛みも、自分の逃げ場として利用した。それがどんな意味を持つか、まるでわかってない」
声は静かだった。けれど内に秘めた怒りと哀しみが、そこにはにじんでいた。
「たとえお前の言葉が本心だったとしても、るりを苦しめた現実は変わらない。今更何を言おうが遅いんだよ」
そして、短く息を吐いたあと、ハルちゃんは一歩、翔真さんに近づく。
その目には、断固とした拒絶と、守るべきものへの確固たる意志が宿っていた。
「——彼女の人生に、お前の居場所はもう一ミリもない」
その言葉は、決して感情的な叫びではなかった。
静かで、冷たく、しかし確実に線を引く“終わりの宣告”だった。