愛しのマイガール
翔真さんは何も言い返さなかった。ただその場に立ち尽くし、わずかに唇を震わせたが、声はもう出なかった。
肩が、かすかに落ちる。
目を伏せたまま、翔真さんは私の方を見ることもなく、ゆっくりと背を向けた。
足音が、コンクリートの地面に静かに響く。それは怒りでも悔しさでもなく、すべてを手放した人間の、諦めきった歩みだった。
やがてその背は夜の闇に溶けていき、完全に視界から消えた。
——風が吹いた。
私はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。
終わったんだ、と思った。
苦しかった時間も、見えない鎖に縛られていた日々も。心のどこかで引きずっていた「彼」の残像も。
全部、いまここで終わったんだ、と。
……なのに。胸の奥が、どうしようもなく空っぽで、切なかった。
「……大丈夫か?」
すぐ横で、低く、穏やかな声がした。
ふと顔を上げると、ハルちゃんが私を見つめていた。先ほどまでの鋭さは消え、どこまでも静かで、優しい目だった。
その目を見た瞬間──
堰を切ったように、胸がいっぱいになった。