愛しのマイガール
その資料に目を落とした薫子さんの顔が、さらに青ざめる。
そこに記されていたのは、翔真さんが私に金銭援助していたという捏造記事の原稿。私の知らないところでこんなものまで用意されていたのかと思うと、背筋がぞくりとした。
「今朝、榊翔真本人の証言付きで正式に押さえた。データもすべてこちらで確保済みだ」
ハルちゃんの声は静かだけど、決して逃げ場を与えない響きだった。
私は咄嗟に翔真さんを見る。けれど彼の視線は、まっすぐに薫子さんの背中を見据えていた。
薫子さんの手から証拠資料がぱさりと落ちていく。それまで辛うじて保っていた強がりが、砕けたように見えた。
「……どうして」
今度は、絞り出すような声だった。それは支配する側の声ではなく、ただすがるような、弱い声だった。
薫子さんが立ち上がり、翔真さんに縋るように歩み寄る。
「ねえ、翔真さん。どうして……どうして裏切ったの?私の、何がいけなかったの……?」
昨日見た、高潔な雰囲気を纏った姿とはまるで別人のように、薫子さんは涙を浮かべていた。そこにはハルちゃんも、天城さんも、私の姿でさえ映っていなかった。
ただ──
愛した相手に裏切られた、ひとりの女性の姿だけがそこにいた。
「私……あなたのこと、本当に好きだったのよ。野心に満ちたあなたを、心から愛してた。だから婚約して、九条のすべてを差し出して、あなたを隣に立たせたのに……」
薫子さんの声は、次第に熱を帯びていった。震える指先が、空を彷徨うように何かを掴もうとしている。
与えてきたもの、誇ってきたもの、それらすべてが否定された現実に、彼女のプライドごと崩れ落ちていくのがわかった。
「なのに、どうして……瑠璃さんなの? あなたが求めるものを、何ひとつ持っていないような、あんな女なのに……!」