愛しのマイガール
───

月城邸の庭園は、とても静かだった。いつもの落ち着いた灯りに照らされて、どこかほっとする空気が漂っている。

先ほどまでの騒がしさも、緊張も、今はもうどこにもなかった。

ハルちゃんはベンチに座ったまま、私のカップに紅茶を注いでくれる。香り高いスリランカティー。私が好きなやつだって、きっと覚えててくれた。

その仕草を見ているだけで、胸の奥がきゅっとなる。

「お疲れさま」

そう言ってカップを差し出してくれるその声が、あたたかくて、優しくて。

私は思わず笑ってしまった。

「……なに?」

「ううん。昼間のハルちゃんとは別人だなって思っただけ」

「そうか?けど、るり以外には大体あんな感じだぞ」

「じゃあ私は特別?」

「当たり前だろ」

静かに笑って、紅茶をひと口。少し熱くて、でもそれが今の私にはちょうどいい。

「……」

胸のどこかに、まだあの涙が引っかかっていた。
あんなに強気だった薫子さんが、誰のことも見ずに涙を落としたあの姿が、どうしても忘れられない。

傷つけられたことに変わりはない。でも、あの人もまた、誰にも救われなかったひとりだったのかもしれない。

そんなことを考えていたら、胸の奥が、ひりついた。

しばらく沈黙が続いた。でも、その沈黙が居心地悪いと思わないのは、きっとハルちゃんだから。

私は、ゆっくりと言葉を探してから、彼の方を向いた。

「薫子さんは……これからどうなるのかな?」

私の言葉にハルちゃんは目を開き、困ったように笑った。

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