愛しのマイガール
その後、記者たちのざわめきとフラッシュの嵐のなか、司会者が「これをもちまして、本日の会見は終了とさせていただきます」と締めの言葉を告げた。
スタッフがすっとハルちゃんに近づき、小さな声で耳打ちする。彼は静かに頷き、私の手を取った。
「行こう。騒がしくなる前に抜ける」
それだけ言うと、彼は報道陣に深く一礼し、私もそれにならって会釈を返す。
二人が歩き出すと、何人かの記者が思わず立ち上がったけれど、ホテル側のスタッフが手際よく通路を開き、私たちはそのまま会場をあとにした。
扉が閉まった瞬間、音の洪水が一気に遮断される。空気が、がらりと変わった。
高級ホテルの奥へと続く廊下は静かで、まるで喧騒が夢だったかのように思えた。
足音だけが、コツコツと響いている。
「……ふう…」
ぽつりと漏らすと、ハルちゃんが微笑む。
「お疲れ様」
エレベーターに乗ると、彼は最上階を示す「PRIVATE」と書かれたキーをカードで解錠し、ボタンを押す。
階数表示の光がゆっくりと上昇していくのを見ながら、私はそっと息をついた。
「疲れたか?」
「うん、ずっと緊張してたから。見て。手、まだ震えてる」
「ん、頑張ったな。るり」
ハルちゃんの言葉に、ほっとして笑ってしまう。緊張も、疲れも、全部その声がほどいてくれる気がした。
やがてエレベーターが静かに開き、そこはホテルのスカイガーデンへとつながる、VIP専用のラウンジだった。
ガラス張りの扉の向こうには、東京の夜景が一望できる屋上庭園が広がっている。
誰の姿もない、特別な場所。
ハルちゃんが扉を押し開き、私はそのあとに続いた。
外の空気は少しひんやりしていて、けれど心地よい。夜の静寂の中、私たちはふたりきりで、都会の灯りの海を見下ろした。