愛しのマイガール
———

コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた瞬間、私は思わず体を強張らせた。たった今、ハルちゃんが「弁護士を迎えにいってくる」と言って部屋を出たばかりだったから。

「はい……」

震えた声でそう返すと、ドアが静かに開く。
先に現れたのは、漆黒のスーツに身を包んだ男性だった。

一瞬で、空気が変わった。
肌にひやりとしたものが触れた気がして身震いする。
表情というものが存在しないかのような、整いすぎた顔。まさに、冷たい彫刻のようだった。

思わず一歩、身を引いてしまう。

「初めまして。弁護士の天城(あまぎ)と申します。月城専務より、蓬来瑠璃さんの法的代理人として指名を受けております」

感情の起伏を感じさせない、鋼のような声だった。
どれほど丁寧な言葉を並べられても、冷たさしか感じない。

だけど——


「るり」

その声が聞こえた途端、空気が和らいだ。
私の名前を呼んでくれた、ハルちゃんの声。

彼が天城さんの後ろから現れて、穏やかな笑みで私を見ていた。その存在に、張りつめていたものがふっとほどけていく。

「不安にならなくていいよ。俺がちゃんと隣にいるから」

たったそれだけの言葉なのに、胸の奥に詰まっていたものがほどけて、喉の奥が熱くなる。

促されてソファに座ると、ハルちゃんがすぐ隣に腰を下ろして私の手をそっと握った。少しだけ震えが収まる。

——大丈夫…どんな話をされても、私はひとりじゃない。

「始めていいですか」

天城さんの事務的な声が、静かだった空気にすっと入り込む。私はびくりとしながらも、小さくうなずいた。


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