愛しのマイガール

「るり、そう怖がらなくていいよ。こいつ、家族の時間邪魔されてキレてるだけだから」

ハルちゃんのその声に、私は思わず彼の横顔を見た。張り詰めていた空気を、軽く指先で弾くみたいにやわらげる口調だった。

「久しぶりだな、天城。一年ぶりか。奥様は元気か?相変わらず尻に敷かれてるのか?」

その言葉に、私はぎょっとして目の前の天城さんを見る。
彼はぴくりとも表情を変えず、ただ射るような目でハルちゃんを見つめ返していた。

(…こわ……)

その視線に思わず私は肩をすくめた。けれどそんな殺気立った空気のなかでも、ハルちゃんだけは余裕の笑みを浮かべたままだった。

「分かってんなら休日に私用で呼び出してんじゃねえよ。このクソエセ紳士野郎が」

あまりにも平然とした言い草に、私は思わず喉の奥で笑いそうになる。

(…尻に敷かれてることは、否定しないんだ…)

私がそんなことを思っている間に、ハルちゃんはソファの背にもたれかかってリラックスしたように息をついた。

「だからうちのスイートルームとフルサービスを使わせてやっただろ? 奥様の誕生日プレゼントに悩んでたお前にひと役買った俺に、礼のひとつくらいあってもいいと思うけど」

「…チッ!」

はっきりと響いた舌打ち。
あまりにも綺麗な顔立ちには似つかわしくなくて、私はついぽかんとしてしまった。

(……冷たそうに見えるけど、優しい人なのかな)

ふと、そんな妙な安心感が胸に灯る。
そして同時に、こんな完璧すぎる男の人を“尻に敷いている”という奥様が、どんな人物なのか気になって仕方がなかった。

ハルちゃんやお兄ちゃんに並ぶような、完璧な顔立ち。そこに知性と実績まで備わっているのなら……彼はきっと、存在そのものがレア中のレアだ。

つい、私はまじまじと彼の顔を見つめてしまっていた。無表情なまま、それでもどこか整いすぎていて、不思議な魅力を持つ人だ。

そのとき、不意に視線が合った。驚いて目を瞬かせる私を見て、天城さんはすぐに目を逸らした。


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