愛しのマイガール
私は小さく深呼吸をした。
きっと、これからの方が大変だ。九条家の大きさ、何も知らずに翔真さんと付き合っていた事実。目を背けたいことばかりだ。でも、逃げるわけにはいかない。
(ちゃんと、しっかりしなきゃ)
この深呼吸は、自分を奮い立たせるためのもの。胸の奥の痛みは消えてくれないけれど、それでも私は、ちゃんと顔を上げようとしていた。
そんな私を見届けた後で、ハルちゃんがゆっくりと天城さんに向き直る。
「……ひとまず、これで方向性は決まったってことでいいか?」
「はい。法務部と連携して必要な手続きは進めます。書類の一部は後ほど共有します」
淡々としていて、けれど的確で。その様子にハルちゃんががわずかに口元を緩める。
「やっぱり、さすがだな。状況整理の早さもそうだが、証拠の積み上げ方が的確すぎる。根拠の洗い出しも反論の組み立ても抜かりがない。仕事が早くて助かるよ」
「そりゃどーも」
少し砕けた天城さんの返事に、彼が早くこの場を後にしたがっているのがなんとなく伝わってくる。
けれど。
「そんな天城に、ついでにもう一件。うちの米国案件のことで少し相談したいんだが」
ハルちゃんのその一言で、天城さんの目元の緩みが一瞬で消えた。
「は?」
「現地法人との契約と財務整理の件で動きがあってな。今のうちに話したい」
「…お前、それは俺の貴重なプライベート時間を奪ってまで今しなきゃいけない話なんだろうな?」
「当然だろ。こう見えて俺も忙しい。捕まえられた時に話すのが合理的ってもんだ」
「チッ!……相談料、別枠でぶんどるからな」
「構わねーよ」
そう言って笑ったハルちゃんが、ふと私に視線を向けてくる。
「るり、色々言われて疲れただろ?俺はこれから少し仕事の話をするから、君は下のラウンジで休んでおいで」
「……え?」
「飲み物でも飲んで気分転換してきな。庭が絶景だから、テラス席がおすすめだよ」
その声はやわらかくて、優しくて。私は戸惑いながらも、自然と頷いていた。