愛しのマイガール
「……うん、わかった。ありがとう」
バッグを手に立ち上がり、軽く一礼して部屋を後にする。
扉が閉まる直前、なんとなく振り返ってみた。そこには、しっかりと天城さんに向き合うハルちゃんの横顔。まっすぐで、頼もしくて。私の知らない彼の姿だった。
——扉が静かに閉まる。
廊下に出た私は、自分の胸にそっと手を当てた。張り詰めていた緊張が、すこしずつほどけていく。
(仕事モードのハルちゃん、かっこよかったな…)
こんな時に考えることじゃないって分かってる。けど、私を見る時の蕩けそうな笑顔とは違って、真剣に資料を読み上げていたさっきの彼は、いつもよりずっと大人びていて。
……少し、いやかなり、ドキッとしてしまった。
そんなことを思いながら、私は静かな廊下を歩く。どこからか流れてくるクラシックの音色が、優しく心をなでてくれていた。
エレベーターホールを抜けて、ラウンジへ向かう。
気持ちを切り替えたくて、私はカフェカウンターでレモネードスカッシュを注文した。受け取ったグラスを手にそのままテラスへと足を進める。
広々としたウッドデッキ。風が頬を撫で、私は思わず深く息を吸い込んだ。
陽射しはやわらかくて、空には大きな雲が一つ、ゆっくりと流れていた。
——そして、ふと。
少し前の、心の奥にあった一場面が静かに浮かび上がってくる。