愛しのマイガール
私は思わず自分の呼吸に意識を向けた。
浮いて見えないだろうか、何か間違った立ち振る舞いをしていないだろうか。
そんな不安ばかりが脳裏をよぎる。
けれど、次の瞬間。
壇上から降りてきたハルちゃんが、私の手を軽く引いた。
「行こう」
彼の声は静かで、まっすぐだった。
戸惑う間もなく私はその手に導かれ、壇の前へと進む。
数歩前に出たところで、再び彼がマイクを取る。
今度の声は、ほんの少しだけ柔らかかった。
「私ごとではありますが、皆さまにもうひとつご報告があります」
その言葉に、わずかなざわめきが走る。
私はハルちゃんの隣に立ち、胸の奥で小さく鼓動が跳ねるのを感じていた。
「この度、素敵なご縁がありまして婚約をする事になりました。その女性がこちら、蓬来瑠璃さんです」
会場に一瞬の静寂が落ちたあと、ゆるやかな拍手が起きる。
どこか探るような視線と、祝福を込めた視線が混じる中、私は深く頭を下げた。
(今、私は“月城巴琉の婚約者”として、この場に立っている)
その現実が、ようやくゆっくりと胸に沁みていった。
それは単なる肩書きじゃない。
この場に立つために、ハルちゃんがどれだけの意志を通してくれたか、私は知っている。
拍手が起こったのは数秒間だった。
控えめだけれど、確かな歓迎の音。
私は深く一礼をしながら、心の中でそっと呟いた。
(この場に立つ重みを、しっかり自覚しなきゃ)
隣にいるハルちゃんの横顔が、わずかに和らいだ気がした。