愛しのマイガール
拍手が静まり、場の空気が再び落ち着いた頃。
ハルちゃんは私の手を軽く引いたまま、ホールの中央へと向かって歩き出した。
「少しだけ挨拶をして回るよ。気負わず、ただ隣にいてくれたらいいから」
「うん。…分かった」
私は小さく頷きながら、緊張で少しこわばった足を前に出す。
ふたりで近づくと、数人のグループがこちらに気づき笑顔で迎えてくれた。
「月城さん、お久しぶりです。先ほどのご紹介、驚きましたよ」
「まさか婚約者をお連れになるとは。おめでとうございます」
「ありがとうございます。改めて、こちらが婚約者の蓬来瑠璃さんです」
私が頭を下げると、相手も丁寧に会釈してくれる。
肩の力がほんの少しだけ抜けた。
穏やかな笑みを浮かべながら言葉を交わしてくれる人たちに、私は何とか笑顔を作って頭を下げた。
「初めまして、蓬来瑠璃と申します。本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます」
言葉に詰まらないようにするだけで精一杯。
それでも、ハルちゃんの手がまだ背中にそっと添えられていることに気づいて、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「蓬来さん……というと、もしやお父様は世界的な音楽家の、あの蓬来氏でしょうか?」
「はい、そうです。残念ながら私は音楽の道へは進みませんでしたが……」
「いえいえ、立派なご家系です。お話しできて光栄です」
やんわりとしたやり取りの中にも、“次代の月城当主の婚約者としてどんな人物か”を見極めようとする気配が含まれているような気がした。
でも、ハルちゃんが常に一歩引かず隣にいてくれることで、私はまだここに立っていられた。