愛しのマイガール
そうしたやりとりをいくつか重ね、ひと通りの挨拶が終わったあと、ハルちゃんは再び私の手を取り、声を潜めて告げた。
「次は……俺の親に会ってもらおうか」
その言葉に、私は思わず立ち止まりそうになる。
「え?今日、ご両親がここに…?」
「父は来てない。けど、母が奥のラウンジにいる。君との婚約の話は事前にしてるから、顔見せだけ一緒に来てほしい」
軽い口調だったけど、その目には、ふざけた気配は一切なかった。
私は小さく唇を噛みしめて、頷いた。
会場の奥、ひときわ静かなラウンジの入り口で、待っていたのは、気品を纏った一人の女性だった。
ハルちゃんと目元がどこか似ていて、けれどもっと鋭く、冷静な光を湛えた瞳。
(——この人が、ハルちゃんのお母さん)
「るり、紹介するよ。母の、月城苑子だ」
その言葉に、女性……苑子さんがこちらに振り返った。ハルちゃんとよく似た、意志の強そうな雰囲気の綺麗な人だった。
私は一歩前に出て、深く頭を下げた。
「はじめまして。蓬来瑠璃と申します。本日はこのような場にお招きいただき、ありがとうございます」
なるべく丁寧に。失礼のないように。
けれど、頭を上げるまでの数秒がとても長く感じた。
ようやく顔を上げると、苑子さんはわずかに目を細めて、私を見ていた。
その目は冷たくはないけれど、感情を読み取るにはあまりに整いすぎていて、まるで高級なガラス細工のようだった。
「……初めまして。息子から、お名前は聞いていました」
それだけ。
挨拶らしい挨拶も、表情の変化もない。
でも、拒絶されているわけではない。それだけは、なんとなく感じられた。