愛しのマイガール
しばらく走ったあと、車は見慣れた白い洋館風の家の前で止まった。
門の前で深呼吸して、ハルちゃんと並んで玄関のチャイムを押す。
すると、開ける間もなく——
「瑠璃ちゃん!やあっと来たのねっ」
ぱっと玄関が開いて、笑顔のお母さんが姿を見せた。
「巴琉くんもいらっしゃい。まあまあ!相変わらず背が高くて素敵ねぇ」
「碧さん、ご無沙汰しております。本日はお招きいただきありがとうございます」
「そんな堅苦しくしないで。さ、中に入って。琥珀さんも待ってるから」
促されて玄関に上がると、家の奥からぬっと現れたのは長髪をラフに束ね、襟のゆがんだシャツのまま現れたお父さん。
「あ〜巴琉くんか。よく来たね。まさか本当に、うちの瑠璃と結婚するとは。人生わからんもんだなあ」
お父さんは相変わらずのマイペースっぷりだった。
着ているシャツはボタンを掛け違えているし、髪だって“なんとなく結んだ”感がすごい。
世界中で指揮を振るっているクラシック界の鬼才と呼ばれる男が、家ではこんなにゆるい人だなんて、誰も思わないだろう。
「琥珀さんも、お久しぶりです。今日は正式にご挨拶と謝罪に伺いました」
ハルちゃんが一歩前に出て、落ち着いた声で頭を下げる。
「いやいや、そんな丁寧にしなくていいんだよ。僕はね、人の誠意っていうのは音と一緒で響きでわかると思ってるから」
「……音と一緒、ですか?」
「そうそう。どんなに正確な音程でも、響いてこないと意味がないの。逆にちょっとくらい外しても、心がこもっていれば聴く人の心は動く。巴琉くんは、ちゃんと響く音がする」
「……ありがとうございます」
私はちょっと横目でハルちゃんを見る。
少しだけ口元が緩んでいた。たぶん、お父さんにそう言ってもらえたのが嬉しかったんだと思う。