愛しのマイガール
「ほら琥珀さん、難しいこと言ってないで、座って座って。今日はただの帰省じゃないんだから!」
お母さんが軽やかに笑いながら、テーブルの方へ促す。
お父さんは「はーい」と子どもみたいな返事をして、ふらふらとリビングへ向かっていった。
その背中を見送りながら、お母さんはこっそり私たちにだけ囁く。
「本当はね、さっきからそわそわしちゃって。珍しく朝からネクタイ探してたのよ。でも見つからなくて諦めてたけど」
「えっ……あれで?」
「そう。見ての通り、何もかも諦めた格好でしょ。さすが琥珀さんって感じよね?」
「……なんだろう。わかるけど、わかりたくない」
呆れる私の横で、ハルちゃんはふっと吹き出しそうになっていた。
そんな空気の中で、ようやくリビングの戸が開く。
「……来たか、巴琉」
ゲームのラスボスのような風格で佇んでいたのはお兄ちゃん。
いつものラフな格好ではなく、ちゃんとジャケットを羽織ってるのが逆に不自然で、ちょっと面白い。
「こんにちは、翡翠」
「なんだそのキモい挨拶は。まあ座れよ。一応は客として迎えてやる」
笑顔で紳士的な対応をするハルちゃんに、お兄ちゃんは顔を歪めて言い返す。
それにハルちゃんも取り繕うのをやめたのか、いつもの調子に戻した。