愛しのマイガール

ダイニングに移動すると、テーブルの上にはすでにお母さんの手料理がずらりと並んでいた。

煮込みハンバーグに、きのこのポタージュ。オーブンでじっくり焼かれた野菜のグリルに、なぜか麻婆豆腐と肉じゃが。そして極めつけは、分厚いステーキ。まるでジャンルごった煮のフルコース。

統一感はまるでない。でもそのちぐはぐさが、なんだか少し懐かしかった。

「さ、座って座って!巴琉くん、お肉は赤身と霜降りどっちが好き?」

「赤身ですかね。脂っこいのは年齢的にちょっと」

「あらあら!琥珀さんと一緒だわ〜。琥珀さんも赤身派よね?」

「霜降りはね、音楽でいうと強奏の連続みたいなもんなんだよ。情熱的だけど疲れる」

「……それ、お肉の話?」

思わず聞き返した私に、お父さんは真面目な顔で頷いた。

「瑠璃。料理も音楽も、“間”が大事なんだよ。脂が多いと、その“間”が潰れる」

「?ごめん、よくわかんない……」

「はいはい、琥珀さんの独特なお肉理論はそのへんにして。いただきましょう?」

お母さんが和やかに笑いながら、手を合わせる。

「いただきます」

家族みんなで声をそろえて、食事が始まった。

ハルちゃんはというと、最初の一口を口に入れた瞬間、柔らかく目を細めた。

「……美味しいです。碧さんの料理は昔から、どれもやさしい味がします」

「まあ!なんて嬉しいこと言ってくれるのかしら!」

頬を染めて喜ぶお母さんに、お兄ちゃんがお肉を口に運びながら冷めた声で言う。

「おい巴琉、あんまり調子乗らせると母さん喜びすぎて明日からスパイス変になるからやめとけ」

「あら翡翠、それはないわよ〜。私の舌の感性は琥珀さん譲りなの」

「僕は味覚よりテンポ重視なんだけどな」

「いや父さん、テンポで味語るのはやめて」

間髪入れずにお兄ちゃんがツッコミを入れて、どっと笑いが起きる。それを見て、懐かしい景色が浮かんだ。

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