愛しのマイガール

ハルちゃんに連れられ応接室に向かい、部屋の扉を開く。それが閉まる静かな音がすると、空気が変わった。

重厚な家具に囲まれた室内には、緊張と集中の気配が満ちていた。

「待たせて悪いな、天城」

テーブルの向こうに座る天城さんは、冷めた視線でこちらに目配せした。

「どうせこうなるだろうと思って時間は余分に確保済みだわ」

「さすがだな。やっぱり妻にベタ惚れな者同士、通じ合うものがあるのかね」

「うっせ。テメーんとこはまだだろうが」


(……あ、まただ…)

ベタ惚れとか尻に敷かれてるとか、ハルちゃんがサラッとそういう事を言うのももちろん恥ずかしいけれど、それより意外なのは天城さんの方。

前と同じく否定しない上に、更に「そっちはまだ」なんてマウントまで取ってくる。このサイボーグみたいな人にそこまで好かれる奥さんは、一体どんな人なんだろう。

(会ってみたいな……)

純粋な興味だけでそんな場違いな事を考えていると、不意に天城さんと目があった。その瞬間一気に緊張が駆け巡り、私は勢いよく頭を下げた。

「よっ、よろしくお願いします!」

「ええ、こちらこそ」

氷みたいな視線が外れてひと安心する。明らかにほっと胸を撫で下ろす私に、ハルちゃんが苦笑いしながら背中を優しく撫でてきた。


「それでは本題に入りましょう」

そう言って天城さんは、静かに資料を数枚広げた。

「まず、九条氏が送ってきた“慰謝料請求通知書”の文面。内容としてはあくまで“榊翔真との婚約が、蓬来瑠璃の介入によって破綻した”という主張に基づくものです」

テーブルに並べられた文書の活字が、妙に鋭く目に刺さる。その一枚一枚を丁寧に見つめ、口をきゅっと結ぶ。
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