愛しのマイガール
「榊氏と九条氏の婚約合意書自体は、法的に有効と認められる可能性があります。ですが、問題は彼がその事実を蓬来さんに一切伝えていなかった点です」
「逆恨みもいいとこだな」
ハルちゃんの声は低く、はっきりと響いた。
そんな彼の隣に座っていることが、何よりの心強さだった。
「そうですね。それにもかかわらず、九条側は“名誉”という形で蓬来さんを潰しにかかっています。狙いは、金銭というより評判の失墜でしょう」
「ああ。だからこそ、今後はこちらからの反訴を視野に入れる必要がある」
ハルちゃんが、そうはっきり告げた。
「反訴の内容は大きく二点。一つは榊翔真が婚約を隠したまま交際を続けたこと。もう一つは、九条薫子がその事実を知った上で蓬来さんの名誉を不当に傷つけようとしている点に対して、名誉毀損と精神的苦痛による慰謝料請求です」
「……私が訴える側になるんですね」
膝の上でぎゅっと握る。
怖くないといえば嘘になる。でも、受け身で傷つくだけの自分ではいたくなかった。
「はい。ただし、ご安心ください。証拠もこちらで整理済みです。報道対応についても、月城専務のご協力もあり水面下での情報管理を進めています」
天城さんの冷静な言葉が、ひとつずつ現実を整えていく。
私は小さく息を吸い、そして吐いた。
「……わかりました。私、逃げません。ちゃんと立ち向かいます」
そう言った声には、確かに強さがあった。
ハルちゃんが私を見て、ゆっくりとうなずく。
「大丈夫。ちゃんと最後まで、そばにいるから」
視線が重なる。
静かな部屋の中、ただその一瞬だけがやけに温かく感じられた。