愛しのマイガール
「私どもは月城家に仕えて二十年以上になります。特に英子は専務……巴琉様の教育も担ってまいりました」
「え……ハルちゃ…巴琉さんの?」
思わず声が裏返ってしまい、慌てて口元を押さえる。
「はい。礼儀作法から外交対応、振る舞いに至るまで。今の専務があるのは、彼女のおかげだといっても過言ではないでしょう」
その言葉に、どこか誇らしげな色が宿る。
一方の英子さんはふっと柔らかく微笑み、私に視線を向けた。
「瑠璃様。大切なのは、完璧を目指すことではありません。“自分らしく、上品であること”です。
蓬来家のご息女として人前に立つことの多かったあなたなら、きっとその感覚は身についているはず。肩の力を抜いていきましょうね」
「あ、ありがとうございます……」
その言葉に、張り詰めていた緊張がほんの少しだけ解けた気がした。
「最初は基本の所作と立ち居振る舞いから始めましょう。姿勢、表情、言葉遣い……今日から学ぶことは、すべて将来あなたの“武器”になります」
私は深く息を吸って、英子さんをまっすぐに見つめた。
「分かりました。……よろしくお願いします」
胸の奥で小さな緊張と、それに等しいくらいの決意がひとつに重なっていた。
“婚約者”としての役割。
それを学ぶことが、彼のためになれるのなら。
私は、逃げずに向き合ってみたいと思った。