宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
そして翌日、帝は綾子の部屋へと訪れた。

「帝。」

綾子は静かに頭を下げた。けれど、その声はどこかよそよそしく、冷めた響きすらあった。

昨夜、他の妃を受け入れた――それを綾子が知らぬはずはない。

いつもなら真っ先に笑顔で迎えてくれる綾子が、今は感情を押し殺していた。

それでも、帝にはもう決めていた。

「今夜は、そなたを所望する。」

少しの間を置いて、綾子は静かに答えた。

「はい。」

ただの一言なのに、そこにあったはずの甘さが消えていた。

女房たちはただならぬ気配を察し、そそくさと部屋を後にする。

二人きりになった部屋の中に、静寂が落ちた。

それは初めて夜を共にしたあの夜とはまるで違う空気だった。

けれど、帝は綾子の前に進み出た。

愛しさは、何一つ変わってなどいない。

「綾子。」

その名を呼ぶ声に、綾子の肩がわずかに揺れた。

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