宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
「今にも君に触れたい。」

帝は、綾子を抱き寄せようとその手を伸ばした。だが――

「いや。」

綾子はさっと身を引いた。袖口を握りしめ、伏し目がちに言葉を落とす。

「……他の女に触れた人など……」

言ってしまった。綾子の顔が青ざめた。

帝にそんなことを言うなど、本来なら不敬にあたる。

だが、それは嫉妬ではない。ただ、心が張り裂けるほど苦しかった。

帝は黙って御簾を閉じ、綾子の前に立つと、そのまま押し倒した。

「それが、どうした。」

「帝……今は昼間でございます。」

「関係ない。昼であろうと、そなたは朕の妃だ。」

袴を解かれる音に、綾子は息を呑んだ。久方ぶりに、帝の手が自分の肌に触れる――

「やはり、綾子の肌は恋しい。」

その指がなぞるたび、身体が思い出す。愛された夜を。囁かれた言葉を。重ねた吐息を。

もう一度、心を重ねることができるのなら――

「綾子、戻ってこい。朕の元へ。」

帝の声は、切実だった。
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