宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
詠子の声は震えていた。

目の前に広がる光景――乱れた衣、頬を紅潮させる綾子、帝の裸の上半身。

見てはいけないものを、見てしまった。そんな顔だった。

「でも……来ない方がよかったですね。」

彼女は小さく頭を下げた。

「詠子様……」

綾子が手を伸ばそうとしたその時、帝がその腕を掴んだ。

「放っておけ。」

「でも……!」

「今は綾子の側にいる。」

それだけを言い残し、帝は綾子を引き寄せた。

詠子は言葉を失い、唇を噛みしめながら御簾の外へ去っていった。

静かになった室内。

綾子は震える声で問いかけた。

「なぜ……そんなことを……」

帝は綾子の髪にそっと触れながら言った。

「綾子の方が、大事だからだ。」

――帝の真意は、綾子だけに向けられていた。

だが、その言葉が誰かを深く傷つけたことも、確かだった。
< 59 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop